08.七日目 昼






「そういえば…ナマエは最近、よく一人で何処か行きますよね?」




本日六件目の食堂で、ひたすらパンを頬張るサシャが問う。
恐らく、訓練後に蝉のライナーに会いに行っている時間の事を言っているのだろう。
一瞬返答に迷ったが、サシャ相手に隠す必要も特に無いので、素直に答える事にした。




「うん、ちょっと森にね」
「森ですか?」
「そう。ほら、訓練所の向こうの…」
「ああ!あの小川のある辺りですね!」



該当の場所が思い浮かんだのか、サシャはとん、と手を叩いて大きく頷いた。


「でも、あんな所に何しに行ってるんですか?」
「……蝉、かな」
「へ?」




きょとんと首を傾げたサシャに、だから蝉だよ蝉。とだけ言って、手元の紅茶に口を付ける。
やっぱり最近のお茶って、どれも薄いなあ。
今のご時世にこう言っちゃあ何だけど、あまり美味しくないし。
昔は地元の茶畑も豊かだったから、美味しい紅茶が飲めたんだけど。




「昔の紅茶がまた飲みたいよ。ねえ、サシャ?」
「そうですねー。……って、そうじゃなくてですね。蝉ってなんですか蝉って」
「だから蝉だよ。蝉に会いに行ってるの」
「…蝉に?」
「蝉に」
「…森に?」
「森に」





訓練中、蝉時雨が聞こえるでしょ?
あの森に、沢山いるのよ、蝉。

そう言えば、訝しげな目を向けながらも、サシャはそれ以上の追求をしなかった。










「でも、蝉って儚いですよねー」




暫くの間を置いて、サシャが思い出したようにそれを発した。
茶請け代わりの乾パンを頬張るサシャに、投げられた会話を短く返す。



「どうして?」
「だって……蝉って、幼虫のまま土の中で何年も孵化するのを待っているのに、やっと地上に出て大人になったら、たった一週間しか生きられないんですよ?」
「……一週間…?」



サシャの言葉に、カップに伸ばした手が止まった。








…………ああ、私は、なんて馬鹿だ。









どうして気付かなかったんだろう。


どうして、気付いてあげられなかったんだろう。

私達が初めて出会ってから、


ライナーが、地上に出てきてから、












今日で、丁度一週間になるんだ。












「……っごめんサシャ!私先に帰る!!」
「へっ?ナマエ!?」




狼狽した様子で私の名を呼ぶサシャを振り向きもせず、私は店を飛び出した。















love for a week 7/7 daytime


(ああ神様、どうか、間に合わせてください……!)